採用活動において「候補者をどう見極めるか」は、企業の成長を左右する重要なテーマです。
せっかく応募があっても、面接での判断が感覚的になったり、質問が曖昧だったりすると、採用後のミスマッチや内定辞退につながりかねません。
本記事では、質の高い面接を実現するために必要な面接官の役割とスキル、面接前の準備、進め方のステップ、評価シートの活用法までを解説します。
面接官の役割と必要なスキル
面接官の役割は、単に「合否を下す存在」ではありません。
候補者の本質を見極め、入社後に活躍できるかを判断するための情報を引き出す役割を担っています。
そのために必要なのが、以下の4つのスキルです。

- 候補者を正しく見極める観察力
- 入社意欲を引き出す説明力
- 期待値をすり合わせる情報提供力
- 複数評価をまとめるリーダーシップ
ここでは、それぞれのスキルについて詳しく解説します。
候補者を正しく見極める観察力
面接は言葉のやり取りだけでなく、候補者の非言語情報(表情、姿勢、声のトーン、反応の速さなど)からも多くのヒントを得られます。
観察力が乏しいと、表面的な回答に流され、本当の人柄や強みを見落とす可能性があります。
例えば、同じ「チームで成果を出しました」という発言でも、役割や貢献度を深掘りして観察すれば、主体的に行動したのか、受け身だったのかが見えてきます。
発言内容と非言語情報を組み合わせて判断する姿勢が、真の見極めにつながります。
入社意欲を引き出す説明力
候補者は「この会社で働きたい」と思えるかどうかを、面接での説明から判断します。
面接官が業務内容やキャリアパスを具体的かつ誠実に伝えれば、候補者の入社意欲は高まります。
一方で説明が曖昧だと、「この会社で大丈夫だろうか?」という不安を与え、内定辞退の原因になりかねません。
会社のビジョンや強みを分かりやすく伝え、「入社後にどんな成長が期待できるか」をイメージさせる力が求められます。
期待値をすり合わせる情報提供力
採用後のミスマッチを防ぐには、候補者と企業の相互理解が欠かせません。
候補者の期待と実際の業務内容に大きなズレがあると、早期退職のリスクが高まります。
面接官は仕事内容や評価制度、残業時間、リモート可否といった働き方の実態を正しく伝えることで、「想像と違った」という離職リスクを事前に防ぐ役割を担っています。
良いことだけを並べるのではなく、課題や大変な部分も含めて伝えることで、結果的に定着率の向上につながります。
複数評価をまとめるリーダーシップ
最終的な採用判断には、複数の面接官や関係者の評価を統合する必要があります。
その際、ばらつきのある意見や評価軸を整理し、客観的かつ納得感のある結論を導くリーダーシップが求められます。
特に、面接官同士で「候補者のどこを重視すべきか」「評価の根拠は何か」を共有し、意思決定を円滑に進める力が重要です。
評価会議のファシリテーターとしての役割を担うことも、面接官の大切なスキルの一つです。
【準備が8割】面接前にやるべきこと
面接の成否は、その場のやり取りよりも事前準備でほぼ決まると言われています。
評価基準が曖昧なまま臨めば、候補者を正しく見極められず、結果としてミスマッチや内定辞退を招きかねません。
面接官が面接前に必ず取り組むべき準備は以下の4つです。
- 採用ペルソナを設定し「求める人物像」を明確化する
- 応募者情報を事前に調べ、仮説を立てる
- 質問リスト・シナリオを設計し、チェックリスト化する
- 自社の魅力を整理し、辞退を防ぐメッセージを準備する
採用ペルソナを設定し「求める人物像」を明確化する

最初のステップは、採用ペルソナの設定です。
ペルソナとは、自社が求める人物像をできるだけ具体的に言語化したものです。
スキルや経験だけでなく、価値観・行動特性・チームとの相性まで整理することで、面接での質問設計や評価基準の一貫性が生まれ、採用精度が向上します。
例えば、「営業経験3年以上」だけでなく、「顧客と信頼関係を築き、継続的に成果を上げた経験」と具体化すれば、質問内容や評価ポイントが明確になります。
応募者情報を事前に調べ、仮説を立てる
履歴書や職務経歴書に目を通すだけでは十分ではありません。
経歴から「強みは何か」「どこを深掘りすべきか」を仮説として準備することで、質問の精度が高まります。
例えば、転職回数が多い場合には「キャリア選択の軸」を尋ねる、成果が数値で示されている場合には「その達成プロセス」を掘り下げるなど、事前リサーチが面接の質を大きく左右します。
質問リスト・シナリオを設計し、チェックリスト化する
面接は即興で進めるものではなく、事前設計が成功の鍵です。
基本質問(志望動機や経歴確認)に加えて、ペルソナに沿った深掘り質問をリスト化すれば、候補者同士の比較も容易になります。
さらに質問リストをチェックリスト形式にしておくことで、面接官ごとの質問漏れや評価のバラつきを防ぐことができます。
自社の魅力を整理し、辞退を防ぐメッセージを準備する
面接は「候補者を評価する場」であると同時に、「企業が選ばれる場」でもあります。
魅力的な情報を伝えられなければ、候補者の入社意欲を高めることはできません。
特に以下の情報は、候補者の意思決定に直結します。
- 入社後のキャリアパス
- 社内のサポート体制や研修制度
- 会社の強みや将来性
これらを事前に整理し、誠実かつ具体的に伝えられるよう準備しておくことで、内定辞退を防ぎやすくなります。
【6STEP】候補者を見極める面接の進め方
面接は即興で行うのではなく、一連の流れを意識して進めることで、候補者の本質を引き出しやすくなります。
ここでは実際の面接で活用できる6つのステップを紹介します。
- ステップ1|アイスブレイクで緊張を解く
- ステップ2|会社・ポジションの説明で期待値を調整する
- ステップ3|応募書類の確認で事実を押さえる
- ステップ4|志望動機とスキルを深掘りする
- ステップ5|逆質問で候補者の本音を引き出す
- ステップ6|クロージングで意欲と適性を再確認する
各ステップを押さえることで、見極めの精度が高まり、候補者体験の質も向上します。
アイスブレイクで緊張を解く
面接冒頭は、多くの候補者が緊張しています。
雑談や軽い質問を交えることで、話しやすい雰囲気を作りましょう。
「今日はご来社いただきありがとうございます」「ここまでの道のりはいかがでしたか?」といった軽い質問でも効果的です。
リラックスした雰囲気を作ることで、候補者が本来の力を発揮しやすくなります。
ステップ2|会社・ポジションの説明で期待値を調整する
面接は評価の場であると同時に、企業の魅力を伝える場でもあります。
会社のビジョンや組織体制、募集ポジションの役割を分かりやすく説明することで、仕事内容のギャップによるミスマッチを防げます。
良い点だけでなく、課題や求められる姿勢も率直に伝えることで、候補者の本気度も見えてきます。
ステップ3|応募書類の確認で事実を押さえる
履歴書や職務経歴書の記載内容を確認することは、面接の基本です。
例えば、「リーダーを務めた」と記載があれば「何名規模のチームで、どのような成果を上げたのか?」と具体的に尋ねることで、事実確認と同時に強みや役割を深掘りできます。
書面では分からないニュアンスや価値観を、候補者の言葉で確認することが、適切な評価につながります。
ステップ4|志望動機とスキルを深掘りする
「御社に貢献したいです」といった抽象的な回答では、適性を判断しづらいのが本音です。
そこで有効なのが、STAR面接法(Situation:状況、Task:課題、Action:行動、Result:結果)です。
「どんな状況で、どんな役割を担い、どう行動し、どんな成果を得たのか」を具体的に尋ねることで、候補者の行動特性や成果の再現性を客観的に評価できます。
ステップ5|逆質問で候補者の本音を引き出す
「何か質問はありますか?」は、単なる締めくくりではありません。
候補者の価値観や不安、志向性を探る貴重な時間です。
例えば、「入社後に活躍している人の共通点は何ですか?」と聞かれれば、候補者が成功イメージを重視していることが分かります。
逆に「残業時間はどのくらいですか?」と質問された場合は、働き方への関心が強いことが伝わります。
逆質問の内容から企業との相性や志望度を見極めましょう。
ステップ6|クロージングで意欲と適性を再確認する
面接の最後は、ただの事務連絡では終わらせず、候補者の意欲や適性を再確認する時間として活用しましょう。
「本日の面接を通じて、当社で働くイメージは湧きましたか?」といった質問を投げかけることで、候補者の気持ちや不安を汲み取り、フォローアップの材料にできます。
前向きな印象で締めることが、内定辞退の防止にもつながります。
候補者を正しく評価するための「面接評価シート」活用法
面接はどうしても主観に左右されやすい評価の場です。
面接官ごとに判断基準が異なると、評価のブレや不公平さが生まれてしまいます。
そこで有効なのが、「面接評価シート」を仕組みとして導入することです。
評価シートを効果的に使うためのポイントは以下の3つです。
- 評価シートが必要な理由を理解する
- 定量+定性で判断できる評価項目を取り入れる
- 採用管理システムと連携して精度を高める
評価シートが必要な理由を理解する
面接では「印象が良いから評価が高い」「話しやすいから合格」といった確証バイアスが働きがちです。
こうした感覚的な判断を防ぐために、評価シートは複数の観点を客観的に記録できるツールとして機能します。
同じ基準に沿って記録を残すことで、合否の根拠を明確に説明できる評価体制を構築できます。
定量+定性で判断できる評価項目を取り入れる
評価シートには、定量評価(数値化できる要素)と定性評価(具体的な行動や印象に関する記述)をバランスよく組み合わせることが理想です。
<評価項目の例>
- コミュニケーション力(表現力・傾聴力)
- スキル・経験(実務経験・業務理解度)
- チーム適性(協調性・主体性)
- 成長意欲(学習意欲・挑戦姿勢)
- カルチャーフィット(組織文化との一致度)
これらを5段階評価とコメント欄で記録すれば、個別の強み・懸念点を明文化できるため、面接官同士での合議にも活用できます。
採用管理システムと連携して精度を高める
紙やExcelでの運用も可能ですが、採用業務の効率化とデータ蓄積を考えるならATS(採用管理システム)との連携が有効です。
システム上で評価を入力・共有できれば、複数面接官の評価が自動で集約され、比較や分析も容易になります。
さらに、過去の採用データと照らし合わせることで「どんな候補者が定着・活躍しているか」を把握でき、採用精度の向上につながります。
面接官が注意すべき点と避けるべきNG行動
面接官は候補者を評価する立場であると同時に、候補者からは「企業の顔」として見られる存在でもあります。
ちょっとした態度や言葉遣いが候補者体験を左右し、内定辞退や採用ミスマッチにつながることも少なくありません。
特に注意すべき点と避けるべきNG行動は以下の通りです。
- 確証バイアスに注意し、印象に流されない
- 複数評価者で客観性を担保する
- 威圧的・不適切な態度を避ける
- 誘導的・押し付けの質問をしない
- 曖昧な回答や情報不足を残さない
- 候補者体験を損ねる行為を避ける
確証バイアスに注意し、印象に流されない
人は「最初に持った印象」に基づいて判断を強めてしまう傾向があります。
これが確証バイアスです。
例えば、「明るく元気な印象」を持った候補者に対しては、多少回答が弱くても高く評価してしまうことがあります。
印象に引きずられず、事実確認や評価シートを活用し、主観ではなく可視化された事実ベースの判断を心がけましょう。
複数評価者で客観性を担保する
一人の面接官の主観だけで判断すると、評価に偏りが生じやすくなります。
そのため有効なのが、複数評価者による面接です。
例えば、人事担当と現場責任者が同席することで、候補者の適性を多角的に見極められます。
さらに評価シートを活用して意見をすり合わせれば、判断の客観性と精度が高まります。
威圧的・不適切な態度を避ける
以下のような威圧的な態度や追い詰めるような質問はNGです。
- 「そんな考えじゃうちは無理ですよ?」
- 「もっとちゃんと答えてください」
これらは候補者を委縮させるだけでなく、企業文化への不信感を生み、内定辞退につながる恐れもあります。
面接官は「評価者」であると同時に、迎え入れる存在であることを常に意識しましょう。
誘導的・押し付けの質問をしない
「この業務は残業が多いですが、大丈夫ですよね?」といった誘導型の質問は、本音を引き出す妨げになります。
また、「うちのルールに従えますか?」というような押し付け型の質問も、候補者を萎縮させがちです。
質問はWhy型・How型を意識し、候補者が自分の考えや価値観を自然に語れるよう工夫しましょう。
曖昧な回答や情報不足を残さない
候補者からの質問に対して、曖昧な回答や「確認しておきます」とだけ伝えるのでは、不安や不信感を与えてしまう可能性があります。
たとえその場で即答できない場合でも、「◯日までにメールでご連絡いたします」といった具体的なフォローをその場で伝えることが重要です。
特に、給与制度やキャリアパスといった重要な質問については、事前に確認・整理し、面接時に明確に答えられるよう準備しておくことが不可欠です。
候補者体験を損ねる行為を避ける
面接中の小さな行為も、候補者にとっては大きな印象につながります。
例えば次のような態度です。
- 時計ばかり見る
- パソコン画面を見ながら質問する
- 他社や候補者の前職を悪く言う
こうした行為はすべて候補者体験(Candidate Experience)を損ね、内定辞退の直接的な要因になり得ます。
タイプ別見極めポイント|中途採用とカムバック採用
候補者の背景によって、面接で確認すべきポイントは異なります。
特に中途採用とカムバック採用(再雇用)では、同じ質問でも重視すべき観点が変わります。
- 中途採用:過去の成果を再現できるか
- カムバック採用:再雇用の動機、退職後の成長、人間関係の改善度
ここでは、タイプ別に見極めのチェックポイントを整理します。
中途採用:過去の成果を再現できるか
中途採用では、即戦力としてどれだけ再現性のある成果を発揮できるかが最大のポイントです。
以下の3点を軸に確認しましょう。
- 実績の達成プロセス:過去の実績をどのように達成したのか。
- 取った行動と工夫:成果創出のためにどんな行動・改善を行ったのか。
- 環境適応力:環境が変わっても同等のパフォーマンスを発揮できるか。
また、専門スキルだけでなく、組織文化への適応力も重要です。
「前職の環境と当社の違いをどう捉えますか?」などの質問で、カルチャーフィットも併せて確認しましょう。
フィットしていない場合、早期退職のリスクも高まるため、慎重な見極めが必要です。
参考:中途採用・経験者採用|厚生労働省
カムバック採用|再雇用の動機、退職後の成長、人間関係の改善度
一度退職した社員を再び採用するカムバック採用では、通常の選考以上に、再入社の妥当性を見極める視点が必要です。
次の3点を重点的に確認します。
| カムバック採用の確認ポイント | |
| 動機 | ・なぜ戻りたいのか ・短期的な事情ではなく、長期的な意志があるか |
| 成長 | ・退職後に得た学びや経験は何か ・以前との違いを具体例で語れるか |
| 人間関係 | ・退職時の課題は解消されたか ・関係者との関係性は改善可能か |
成長意欲があり、過去の課題を乗り越えた姿勢が見られれば、再雇用は双方にとってプラスになります。
一方で、問題の根本が解消されていない場合は、再びトラブルになる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
よくある質問(FAQ)
ここでは、面接官が直面しやすい疑問や悩みに答えます。
基本を押さえておけば、面接の進行や判断に迷うことが減り、候補者対応の精度も上がります。
適切な面接時間はどれくらい?
一般的に、一次面接は30〜60分程度が適切とされています。
短すぎると十分に深掘りできず、逆に長すぎると候補者に負担を与えます。
時間配分の目安は以下の通りです。
- アイスブレイク:5分
- 会社説明:10分
- 経歴・スキル確認:15分
- 志望動機・逆質問:15分
- クロージング:5分
合計で50分前後を目安に、候補者の状況に応じて調整しましょう。
面接の最後に伝えるべきことは?
クロージングでは、候補者の不安を解消し、前向きな印象を残すことが大切です。
- 「本日の面接を通してご不明点はありますか?」と確認
- 「当社でのご活躍に期待しています」と前向きな一言を添える
- 「◯日以内に選考結果をご連絡いたします」と次のアクションを明示
これにより、候補者の安心感と信頼度が高まり、内定辞退率の抑制にもつながります。
オンライン面接で特に注意すべきことは?
オンライン面接では五感の情報が限定されるため、以下の工夫が必要です。
- 通信環境の安定化:事前テストと予備ツールの準備
- カメラ目線を意識:画面ではなくカメラを見ることでアイコンタクト
- 表情と声のトーン:笑顔・うなずき・リアクションで安心感を演出
- 背景・服装・照明:ビジネス感のある環境を整える
画面越しでも信頼関係を築く姿勢が、選考成功の鍵になります。
まとめ
採用活動において、面接官の役割は単なる「合否判定」ではありません。
候補者の本質を引き出し、企業との相互理解を深める場をつくることこそが本質です。
観察力・説明力・情報提供力・リーダーシップを備えた面接官は、候補者を正しく見極めるだけでなく、入社意欲を高め、辞退やミスマッチのリスクを大幅に抑えることができます。
<面接の質を高める5つの実践ポイント>
- 採用ペルソナを設定し、求める人物像を明確化する
- 質問リストとシナリオを準備して面接を標準化する
- STAR法や逆質問を活用して候補者の本音を引き出す
- 評価シートで定量・定性の両面から記録する
- 面接後にフィードバックを共有し、改善サイクルを回す
面接スキルは一度学べば終わりではありません。
変化する採用市場や価値観に対応するには、面接官自身が学び続ける姿勢が求められます。
評価シートやATSのデータを活用し、面接官同士でナレッジを共有することで、組織全体の採用力を継続的に高めていくことが重要です。
この記事の監修者:
2024年9月、株式会社SENPOUを設立。代表取締役として採用支援事業全般を統括。
現在も大規模案件のディレクターとして、採用支援活動に従事。
大手部品メーカー、スタートアップ、創業期ベンチャー、地方中小企業など、50社以上の採用課題を支援。採用戦略構築からスカウト運用、採用広報、組織開発まで一貫した支援を得意とする。
